ⓔコラム12-6-5 ハームリダクション (harm reduction)

 現在アルコール依存症者は約53万人と推計されている.これに対し,アルコール依存症と診断されている患者数は約5万人に過ぎず,アルコール依存症患者が適切な治療に結びついていないという治療ギャップが存在する.アルコール性臓器障害の治療の基本は断酒であるが,依存症ではその達成がしばしば困難で,治療ギャップを生じる一因となっていると考えられる.このため,近年は断酒が困難な患者に対しては,飲酒量の低減を目標とした治療が世界的に広まっている.飲酒量低減により肝脂肪化や肝酵素値の明らかな改善を示す症例が認められ,断酒に至らずとも飲酒量低減により臓器障害の軽減をはかる,いわゆるharm reductionの有効性が示唆される1).日本においても,2018年に出版された新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインにおいて,飲酒量低減が治療オプションになりうると記載され,その際の治療薬物としてオピオイド拮抗薬ナルメフェンの使用が推奨されている2).ナルメフェンは,飲酒の快楽効果を減少させる作用をもち,飲酒量低減とharm reductionへの効用が期待される.

〔竹井謙之〕

■文献

  1. 藤田尚己,岩佐元雄,他:アルコール性肝障害における肝機能等身体に及ぼす飲酒量低減の効果.日本アルコ-ル・薬物医学会雑誌,2013; 48: 32–38.

  2. 樋口 進,齋藤利和,他編:新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン,新興医学出版社,2018.